1.まちつくりにおける商勢圏の把握手法

 活性化に向けた対策を決めていくうえでは、地域の商勢圏内の潜在購買額から吸引可能となる額(売上可能額)について推定し、それを活性化の具体的目標、仮設シナリオとして組立て、その達成を左右する各種対策の効果水準を判定していく過程を経ていくことになります。
 まず、最初におさえなければならないのは自分たちのまちの商勢圏です。ここでは自らの顧客が現在どの地域に分布しているか(商圏)を把握する手法を概説します。自分たちのまちの商圏を正確に把握することはその後の活性化策検討の合理性に関わってきます。合理的な根拠を欠いた無理のある商圏設定は、ともすると調達不能な投資額を要する実行不能な対策に誘導することになり、いわゆる絵に描いたもちとなって、事業参画者の合意を得る上でも説得力を欠くことになります。
 従って、商圏設定を含め商業性能解析の各段階全般にわたっていえることですが、一つ一つの分析の前提条件や手法、およびその結果(読み取りかたを含む)については客観性、合理性をもって誰もが納得できる内容を持つ必要があります。また多くの手法では各種の公的統計やアンケート等の実態調査データを利用することになりますが、これら統計自体にも一定の前提条件と特性があるので、適用限界、結果の信頼性を理解したうえで正しく使う必要があります。
 ここでは5つの商圏把握手法を紹介します。

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①アンケート手法(留置調査法、来街者調査法)
 地域消費者からアンケートによりダイレクトに消費行動について情報を得る商圏把握の原則的手法です。その他の手法についても多くは消費者から直接情報を得たり、あるいはこの直接情報から消費者行動として一般化したモデル例に基づいている場合が多いといえます。要するに消費者が何をどこでどのように消費するかは直接消費者に聞くよりほかないということです。

 このアンケート手法の留意点として大きく3つあります。一つは、消費者全体を代表するようにサンプル(一定の標本誤差に収まるよう抽出)を選び出して回答を得る必要があるということです。二つ目に事前調査により商圏について概ねあたりをつけた上でサンプル数や調査範囲を定める必要があるということです。三つ目にその後の集計や分析計画をたてて効率的、心理学的、合目的的な調査票の設計を行う必要があるということです。
 3つの留意点に共通して言えることは地域の商圏構造について既存データから仮説をたてることの重要性です。生活実感や各種のデータ、情報からおおむねの商圏範囲、消費行動がわかっていなければ調査設計もできません。イメージ的にいうと6~7割はわかっているけれども残りの2~3割がどうもはっきりしないという場合に行うのがアンケート手法の大原則です。このように仮説をたてることはアンケートによって得たい情報、検証したいことを具体化、詳細化し、調査目的をはっきりさせることにつながります。
 地域の商圏構造を事前に把握する手法としては「6章-1地域の消費性向、競合状況、動線整備に特筆すべき特性」で解説した一連の方法があります。地域の交通体系(鉄道やバス網、道路交通体系)と人口分布、主要な商業集積地とパナー指数を一枚の地図に落すだけでも概ね商圏構造は読み取ることができます。また地図に距離圏を落とし、その内の人口集積の水準や地域のシェア状況から出店の可否を概観する手法は多くの流通業において行われています。まずはこうした作業をおこなって、アンケート調査の設計を行う必要があります。

 またアンケート手法には大別して留置調査法、来街者調査法があります。留置調査法は調査票を一定のサンプリング計画に基づいて抽出された調査対象者を訪問あるいは郵送して調査票の記入を依頼し、後日回収する方法です(訪問してその場で面接聞取りして回答を得る方法もあります)。来街者調査法はいわゆる「立ちんぼ調査」といって街中の調査ポイントで来街者をつかまえて、アンケートに回答してもらう方法です。複数の人を集めてグループインタビューを行う手法もあります。
 それぞれ目的に応じた適性があり、一概にどの手法が優れているとはいえませんが、商圏調査に関していえば基礎的事項について多くのサンプルから情報を得たいときは留置調査法、景観、歩行経路など現場での詳細な情報を得たいときは来街者調査法を選択します。いずれにせよ調査手法の選択、サンプリング、調査票設計及び集計・分析計画の立案など専門知識が必要になる場合があるので、専門の調査会社やコンサルタントを活用することをお勧めします。
 
 新たに商圏調査を実施するのは時間と費用がかかるので、第一段階のエスキスとしては、商店主の方々が実感として、あるいは自店の顧客情報として持っている情報から概ねの商圏範囲を定義することから始めるとよいでしょう。もちろん客観性、合理性をもった情報とすることが前提ですが、商圏調査を新たに行わないと全く判断できないということはありません。逆にどんなに厳密に調査設計をして得たデータであっても誤差があって実感とそぐわない結果が出てくることがあります。統計はときとしてウソをつくこともありますのでその信頼性の限界をよくわきまえておく必要があり、統計と実感が矛盾したときは、その理由をはっきりさせたうえで、自らの実感、生活体験に根差した判断を優先させるべきでしょう。(これを"五感優先の原則"という人もいます)

 また既存データの活用も有効です。多くの都道府県、商工団体で商業施策立案の基礎資料として定期、不定期で「買物動向調査」を行っています。県内の消費者が品目ごとにどの商業地に買物にいっているのか集計されているので都市レベルの商圏構造とその動向を知るには大変便利な資料です。その他、地元市町村や商工会・会議所でもこのようなアンケート調査を行っている場合もありますので、問い合わせてみると良いでしょう。

※都道府県等が行う「買物動向調査」
多くの場合、「留置調査法」で行われています。調査の便宜上、教育委員会等の協力を得て小学校の2、3年生の児童の家庭(たいてい記入者は母親)に回答を依頼する例が多く、サンプルが30~40代女性に大きく偏るクセがあることなど使用上、留意すべき点もあります。


②来店者調査(ヒアリング、カードシステム、調査票による調査)
 百貨店やチェーンストアなど大手流通業で大抵行われている手法です。定期的に店頭で来店者調査をおこなったり、イベント、販促とあわせたアンケート、あるいはメンバーズカードの入会者情報から自店の商圏動向を把握しています。
 近年注目を浴びているのはPOSS(Point Of Sales System: 販売時点管理システム)の活用です。メンバーズカードにキャッシャーでの決済機能やポイント情報をもたせ、顧客ごとの買物情報を蓄積してセールスプロモーション(販促活動)やマーケットデータとして活用する方法です。現在は商品管理や店頭業務の効率化が主流のようですが、将来的には次世代POSSとして顧客情報、買物情報から自店商圏の動向をリアルタイムに把握できるマーケティングシステムへと発展していくかもしれません。
 このような顧客情報管理、マーケティングシステムのような先進型POSSの新規導入は理想的ですが、既存の商店街ポイントカード事業を行っているのであれば、その会員情報から居住地を地図にプロットしていくだけでも詳細な商圏把握に相当役立ちます。カード事業を行っていなくとも各個店の顧客台帳からそれぞれの情報をもちよってまちの商圏を把握する方法もあるでしょう。また定期的に大手流通業が行っているような店頭での来店者調査を行って、商圏動向の把握を行う方法も考えられます。
 重要なのは顧客情報や商圏情報を個店ごとの垣根を超えて商店街全体のために共有化を図り、日々の販促活動や活性化策の検討にフルに活用することでしょう。


③距離圏の図上計測による商圏推定(GIS活用)
 商圏把握の方法として特に新規出店時には最も一般に行われている方法といえます。店舗を中心に500m、1kmといった店舗の規模や業種・業態に応じた経験的に知られている商圏範囲を地図上に落とし、その範囲に入ってくる人口・世帯数、競合店の位置をしるし、これも経験的に知られるシェア率を掛け合わせて売上高予測をする方法です。
 ほとんど一般化された経験値のみから語る世界ですが、チェーン展開している流通大手の場合、既存店の実績データが豊富にあり、判断基準も明確化されているため、第一段階の判定としては簡易でかつ信頼性の高い方法として広く採用されているようです。
 高度化した方法として単に半径500mというような単純な円でなく、地域の道路体系(車動線の構造)にあわせ、道路に沿って自動車10分圏,20分圏などを計測し、その範囲を商圏として設定する方法があります。測地的に地図に商圏範囲が示されるので、商圏内の人口やその年齢構成などの情報が商圏範囲にフィットしたかたちで定義できるため、きめ細かなマーケットデータをMD計画に活かすことができます。
 実際に地図上の距離を測るのはキルビメータを使って手間暇をかけて測ることになりますが、近年ではエリア・マーケティングのためのGIS(Geographical Information System:地理情報システム)活用が盛んになってきています。これはコンピュータ上の地図において距離を計測したり、データ分析を行ったりするシステムですが、このGISを活用すると距離計測など面倒な作業の効率化が図られ、また高度な分析も手軽に行えるようになります。
 先の顧客情報とリンクさせて自動的に顧客の分布状況を地図表示させ、さらに道路体系、競合点、人口増減の動向などの地理的情報と一括表示させるなどエリア・マーケティングの分野ではGISの活用が今後盛んになっていくものと考えられます。
 いずれにせよ、この手法による場合、自らの商店街が自動車商圏なのか、自転車商圏なのか、それとも徒歩商圏なのか、またそのときの来街時間距離をあわせて地図上に商圏範囲を定義していくことが重要です。


④各調査値+ハフモデルによる商圏推定(将来動態の予測)
 ①~②の商圏把握手法はいずれも現在の商圏を明確にするために行うものですが、将来どのように商圏が動く可能性があるのか、将来動態を予測することによって仮設シナリオの客観性、合理性を高めることができます。自らの商店街に新規の商業床の投入を行ったり、主要な動線整備を行ったりしたときの商圏拡大、シェア向上の効果の程度をハフモデルによってシミュレーションを行います。その結果は仮設シナリオに具体的指標を与えてくれます。例えば「東西道路」整備を行い距離抵抗を50%低減させることができた場合、F市方面からの吸引額が2ポイント、10億円向上させうるというような具体的な整備効果の予測値で表現されたシナリオが設定されます。
 このように将来動態まで含めた商圏設定を行うためにはシミュレーション手法が必要になります。

⑤買回/最寄シェア+構成比分析(商圏域人口ヒストグラム分析)
 ①~③の手法による商圏設定さらに④による商圏の将来動態の予測をふまえ、設定商圏における当該都市のシェアを買回、最寄品別に算出します。この結果から、設定商圏の妥当性および6章で述べた商圏特性(品目別の優劣の特性)を確認します。
 例えば品目別のパナー買回品総合が40%であり、設定商圏内の当該シェアが概ねこの数値に近くなっていれば妥当性があるといえます。ただし多くの場合、地域の商勢圏における中心商業都市の存在により、自市商圏外に購買力が流出していることがあるため、その流出分は考慮にいれて妥当性をチェックする必要があります。
 さらに、設定商圏内の性・年齢階級別の人口構成とその時系列動向から、その商圏が何万人の商圏で、将来的な人口増減の見通しはどうか、どのような階層が多い商圏なのかといった人口の側面から見た商圏のプロフィールを明らかにしておきます。この結果は、設定商圏の将来人口として設定シナリオを構成する要素となるし、その後のMD計画の基礎資料ともなる重要な分析です。

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